スマートウォッチを超えた成長速度
2026年初頭、ウェアラブル市場に静かな地殻変動が起きている。スマートウォッチが市場を支配してきた10年を経て、指輪型デバイス「スマートリング」が急速に存在感を高めているのだ。BloombergがIDCのデータをもとに報じたところによると、2025年のスマートリング出荷台数は前年比49%増を記録した。同期間のスマートウォッチ成長率(6%増)と比べると、その勢いは際立っている。CES 2026では、Oura Ring、RingConn、DreameのHaptic AIスマートリングなど複数ブランドが最新モデルを競って発表し、スマートリングはウェアラブル市場の新たな主役として注目を集めた。
「画面なし」だからこそ日常に溶け込む
スマートリングが支持される最大の理由は、その「不在感」にある。スマートウォッチは常に画面が視界に入り、通知が飛んでくる。一方、スマートリングは常時装着していても存在を主張しない。睡眠中も、運動中も、仕事中も、ユーザーが「つけていることを忘れる」レベルで日常に馴染む。Oura Ringのユーザー調査によると、装着継続率はスマートウォッチより約30%高いとされており(Oura調べ)、これは「デバイスを外さないこと」がデータ精度の向上に直結するという点で重要だ。心拍数・血中酸素・体温・睡眠の質といったバイタルデータは、24時間継続計測してこそ意味を持つ。
AIとの連携が「ただの記録」を「洞察」に変える
最新世代のスマートリングは、計測したデータをAIで分析し、個人に最適化されたフィードバックを提供する機能を持ちはじめている。RingConnのAIアルゴリズムは、睡眠スコア・HRV(心拍変動)・体温変化を統合解析し、「今日の体調は運動に適しているか」「ストレスが蓄積しているか」を自然言語で伝える。Dreame Haptic AIリングは、2.5mmという超薄型ボディに複数センサーを搭載し、指先への触覚フィードバック機能を世界で初めて実装した。デバイスが画面なしで情報を届ける「触覚UI」は、ポスト・スマートフォン時代のヒューマン・インターフェースとして注目される。
ヘルスケア産業の「入り口」を巡る競争
スマートリングの台頭は、テック企業にとって単なるガジェット競争ではない。健康データの蓄積は、保険・医療・フィットネスなど隣接産業への入り口になる。Ouraはすでに保険会社との連携プログラムを試験展開しており、データに基づく保険料割引モデルの実証を進めている。一方で課題もある。医療グレードの精度をどう担保するか、個人の健康データをどう保護するか、という問いは未解決のままだ。FDAの承認を取得した医療デバイスとして流通するためには、まだ相当な時間がかかると業界関係者は指摘する。それでも「健康データの窓口」としての地位を先に押さえたプレイヤーが、次のヘルスケアエコシステムを設計する立場になるという見方は広がっている。