「環境を守る」から「環境を良くする」へ──農業パラダイムの根本転換
『ネイチャー・フード』(Nature Food、英国の国際科学誌)の2026年調査によると、グローバル農業企業の42%がリジェネラティブ農業への転換計画を策定中と報告されています。
従来のサステナブル農業(持続可能性=今の農業を環境負荷を最小限に保ちながら続けること)は「現状を悪化させない」ことに焦点を当ててきましたが、リジェネラティブ農業(regenerate=再生する)はさらに一歩進み、農業活動そのものが土壌の肥沃度(養分の豊かさ)や生物多様性(異なる種の生き物の多様さ)を高める「環境の再生」を目指します。つまり、農地での活動を通じて、その土地をより豊かなものに変えていくという考え方です。
この転換は、気候変動への対応と食糧安全保障(世界的な飢饉リスクの低減)の両立を求める社会的圧力から生まれました。
土壌の回復=企業の資産価値向上──複数の手法で「土地を良くする」
リジェネラティブ農業の実践には、複数の手法が含まれます。カバークロップ(間作=本来の作物の成長期に別の植物を植えて土壌を守る)、堆肥化(有機物を分解させて栄養豊かな肥料にする)、不耕起農法(毎年の耕耘を避けて土壌中の微生物を保全する)といった取り組みです。
これらの取り組みにより、土壌に蓄積された炭素が増加し、農地のカーボンシーケストレーション機能(CO2を吸収して炭素を地中に固定する機能)が強化されます。パタゴニア(Patagonia、米国のアウトドアウェアメーカー)は自社サプライチェーン内の綿農業でリジェネラティブ農法を推進し、3年で土壌炭素量が平均30%増加したと報告しています。
さらに重要なのは経済効果です。こうした農地から生産される農産物は「リジェネラティブ認証」(リジェネラティブ・オーガニック・アライアンスなどが認定する第三者認証)を取得し、従来の有機農産物より20~40%高いプレミアム価格での販売が可能になります。企業にとって土壌回復は「環境への配慮」ではなく「農産物の収益性向上」という直結した経営課題になっています。
食品大手からEU政策まで──産業・政策レベルでの本格的採用
ゼネラル・ミルズ(General Mills、米国の大手食品メーカー、シリアルやヨーグルトで知られる)は2030年までに100万エーカー(約40万ヘクタール=東京都の2倍以上の面積)の農地でリジェネラティブ農業を実施する目標を掲げており、2025年時点で既に40万エーカーが転換済みとなっています。
各国政府も積極的に支援に動いています。欧州連合(EU)がCAP(共通農業政策=EU全体の農業補助制度)改革でリジェネラティブ農法に対する助成金を倍増し、従来の慣行農業から転換する農家への経済的インセンティブを強化しています。これらの政策支援により、個別企業の環境配慮ではなく「産業標準化」としてのリジェネラティブ農業が急速に広がっています。
業界全体の「標準化」へ──企業間競争から協調への転換
個別企業の環境配慮の取り組みから、産業横断的なムーブメントへ転換し始めています。食品・飲料・アパレル企業が共同でリジェネラティブ農業の認証基準を策定し、サプライチェーン全体での標準化を進めています。
例えば、「リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス」(ROA)という国際認証機関では、複数の大手企業が参加して統一的な認証基準を開発しています。これにより、農家が複数の企業から異なる要求基準を受ける混乱を避け、統一された実践方法でリジェネラティブ農業に取り組むことが可能になります。競争から協調へのシフトは、この新しい農業モデルが「企業間の差別化要素」ではなく「業界全体の必須基準」として成熟しつつあることを示しています。