なぜインドのD2C市場が13億人経済で爆発的に成長しているのか?
インドのD2C市場(企業が仲介者を経ずに消費者に直接商品を販売する市場)は現在3400億ドル規模に成長しており、2030年には1兆ドルに達すると予測されています。この急成長の背景にあるのは、スマートフォン普及率の劇的な上昇と、UPI(Unified Payments Interface。インド政府が推進する統一決済基盤で、銀行口座を持たない貧困層でもスマートフォンから送金決済ができる仕組み)というデジタル決済インフラの整備です。従来のインド小売業は、大型百貨店やシャッターモール、街中の小売店という物理的な販売チャネルに依存していました。しかしこの10年間でスマートフォンユーザーが3億人から9億人に急増し、デジタル決済が民主化されたことで、従来の小売構造は根本的に変わりつつあります。13億人という人口規模のうち、インターネット接続可能な消費者がようやく多数派になったのです。
Mamaearth、boAtといったスタートアップがなぜ大手流通を迂回できるのか?
Mamaearth(インド発のスキンケアブランド)は創業からわずか7年でIPO(株式公開)を達成し、boAt(インド発のオーディオ機器メーカー)はインドのイヤホン市場で第1位のシェアを獲得しました。これらのブランドに共通する特徴は、従来の大手流通企業や百貨店を経由することなく、InstagramやFacebook、YouTubeなどのSNSとEC(Eコマース)プラットフォームを通じて直接消費者にリーチしたということです。従来のビジネスモデルでは、メーカーは流通業者に商品を卸し、流通業者が小売店に販売し、小売店が消費者に販売するという複数の中間マージンが発生していました。D2C(Direct to Consumer)モデルは、これらのすべての中間業者をスキップし、メーカーが直接顧客と関係を構築するため、商品の原価率を高く保ちながらも、消費者には低価格で提供できるのです。Mamaearth、boAtの成功は、インドの若い消費者層がSNSを通じたブランド発見・購買に抵抗感を持たないことを証明しました。
WhatsApp Commerceはなぜデジタルリテラシーの低い層でも買い物を可能にするのか?
インドではWhatsAppというメッセージングアプリの月間アクティブユーザーが5億人を超えており、多くのインド人にとって日常的なコミュニケーションツールになっています。WhatsApp Commerce(WhatsApp上で完結する商取引)は、アプリを新たにインストールする必要がなく、すでに使い慣れたアプリ内で商品検索、注文、決済まで実行できるため、デジタルリテラシー(デジタル技術を理解し使いこなす能力)の壁を大幅に取り払いました。従来、デジタル決済への移行には、銀行口座開設、スマートフォンの操作習慣、新たなアプリのインストールと操作学習など、複数の段階的障害がありました。しかし、すでに存在するメッセージアプリに商取引機能を埋め込むことで、既存ユーザーベースを活用した爆発的な成長が可能になったのです。WhatsApp上で注文から決済まで完結する仕組みは、100万以上の中小企業に新たな販売機会をもたらしました。インド政府もこの動きを支援しており、D2C市場の急成長は、日本企業にとっても無視できない戦略的機会になっています。